「AIに仕事を奪われる時代が来る」と言われて久しい。
でも、それって本当なのか?
そして、自分のような中年サラリーマンにとって、それは明日の現実なのか、遠い未来の話なのか。
今回は、ある日突然AIと向き合うことになった“おっさん”の視点から、「仕事」と「AI」のリアルな距離感を探ります。
定年まで逃げ切れると思っていた

「AIとかロボットとか言うけど、うちは関係ないやろ。」
そう思っていた。
いや、思い込みたかった。
某中堅メーカーの営業部で30年。
取引先との関係は顔と根回しで築いてきた。
FAX文化も根強く残り、Excelのマクロもよう使わんが、それでもなんとかなってきた。

「デジタルは若いもんに任せとけばええんや」
そう豪語していたおっさんの背中に、ある日、冷たい風が吹く。
それは、部長が口にしたたった一言。

「来期から、AIで営業分析を自動化することになったよ。まずは、お前の担当分から始めようか」
AIって、なにができるんや?
AIに仕事を“奪われる”と聞いた瞬間、頭が真っ白になった。

「オレの代わりに、こいつが得意先回るんか?」
「『今月の発注どないです?』って、AIが聞くんか?」
「懇親ゴルフの段取りもAIがやるんか?」
だが、部長が持ってきたのは、スプレッドシートにピタッと貼り付いた「営業サマリーAI」。
過去3年分の売上データを基に、来月の予測を出し、商品の需要傾向や重点顧客をリスト化するという。

「これがあれば、無駄な訪問を減らせるだろ? お前も楽になるぞ」
いや、それが怖いんや。楽になるってことは、オレが要らんようになるってことやろ……。
AIは黙って仕事をこなす
実際に動かしてみて驚いた。
AIは、一瞬で顧客別の売上推移をグラフにし、今年の傾向と去年の違いを指摘してくる。
「この客、発注頻度が落ちてるけど、キャンペーン効果が切れてる可能性があります」とまで言う。

「これ……課長より優秀やんか……」
もちろん、雑談もできなければ、取引先の社長がゴルフ好きとかは知らん。
でも、数字とロジックの分析なら完璧だ。
おっさんは、初めて「自分の代わりになり得る存在」が画面の中にいることを、肌で感じた。
置いていかれる恐怖
その日から、焦りが始まった。
夜な夜なYouTubeで「AIとは」「仕事がなくなる職種ランキング」といった動画を漁り、ChatGPTに「中年営業が生き残るには?」と質問する。
AIは優しかった。「対人関係に強みを持つ人材は、AIと共存できます」と言う。
でも、その「共存」の意味がわからない。
共存ってなんや?
つまり、同じ職場に“AI様”がいて、ワシはそのお手伝いでもするんか? 主従関係やないか。
研修室の屈辱
そんなある日、「DX研修」が社内で実施されることになった。
講師は若いITベンチャー出身の30代。

「皆さんの業務、AIでどこまで効率化できるか一緒に考えましょう!」
にこやかに語る彼の後ろで、PowerPointがピカピカ光る。

「では実際に、ChatGPTで得意先への謝罪メールを書いてみましょう」
おっさん、動揺。

「謝罪くらい自分で書くわ!」
……と思ったのも束の間、AIが打ち込んだ文章を見て絶句する。
《拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。》
《この度は弊社の手違いにより、多大なるご迷惑をおかけいたしましたこと、深くお詫び申し上げます。》
完璧やんけ。
しかも、3秒で出てきた。
なんでワシが30分悩んで絞り出した文章より、こいつの方がしっかりしとるんや……。
じゃあ、ワシは何ができるんや?
研修の帰り道、おっさんは缶ビール片手に駅前のベンチでうなだれていた。

「ワシ、ホンマに要らん存在なんやろか……?」
人間らしい情とか、付き合いとか、顔の見える関係とか、それがワシの武器やったんちゃうんか?
でも、その“武器”も、相手が若い購買担当に代われば通じない。
むしろ、「その場で資料ください」「数字で説明してください」と言われる。
おっさんの強みは、強みではなくなりつつあるのかもしれない。
AIは敵か、パートナーか
その夜、ふとAIに聞いてみた。

「おっさんって、まだ価値あると思う?」
ChatGPTはこう答えた。

「経験や感情に根ざした判断、長年培った信頼関係、柔軟な対応力――それらはAIが簡単に真似できるものではありません。AIは“代わり”ではなく“支え”です」
はぁ……なんやねん、その優等生みたいな答え……。
でも、少しだけ胸が軽くなった。
生き残るための再出発
翌日から、おっさんは変わった。
毎朝、AIで営業データを確認し、訪問計画を立てる。ChatGPTで予測質問を生成し、事前に答えを用意。訪問時は「お客様のデータ、こう出てましてね」とタブレットを見せる。
取引先は驚いた。

「おっさん、最近やたらIT慣れしてません? 息子さんに教わってるとか?」

「いや、ワシにもAI先生がおるんや」
そう笑うと、自然と会話が弾む。むしろ、今までより深い話ができるようになった。
AIがやってくる未来に、おっさんはどう立つか
仕事を奪うのはAIじゃない。
「変わらない自分」こそが、仕事を失わせる。
そう気づいたおっさんは、今日もAIと一緒に働いている。
パソコンの横には、デジタルアシスタントのウィンドウ。
イヤホン越しに「今日の訪問先は…」と読み上げる声。
それを聞きながら、おっさんはネクタイをキュッと締める。

「よし。AIくん、今日も一緒にがんばろか」
【あとがき】
このブログはフィクションですが、限りなく現実に近い話です。
AIが進化するほど、人間の「感情」「経験」「判断」が価値を持ちます。
それを活かせるかどうかは、技術を拒絶するか、取り入れるか――その一歩にかかっているのかもしれません。