ある日の朝、おっさんは部下からの週報を読みながら、コーヒーを片手にぼやいていた。

「最近の若いもんは、やる気はあるけど方向性がバラバラやな……誰がどれくらい頑張っとるのか、よう分からんわ」
昔なら、遅くまで残業してる奴が“頑張ってる証拠”だった。
だが今は、リモートワーク、裁量労働、Slackの緑点灯、そして謎のGitHubコミット。

「こいつ、Slackにはいないけど、実は深夜にコード書いとるんか……?」
おっさんの混乱は日々深まる一方だった。
そんなある日、会議室での管理職ミーティングの最中、隣の席のカワサキ課長がボソッと言った。

「ウチは最近、AIで評価スコアつけとるで」
おっさん、食いついた。
AI評価ってなんや!?
カワサキ課長いわく、社員のメールやチャット履歴、コードの質、プロジェクトへの貢献度などをAIが自動で分析し、 「積極性」「協調性」「技術力」「納期遵守率」などのスコアを算出するらしい。
「AIに任せたら、人間関係に忖度せんでええしな」
おっさん、感動した。

「そんなん、神やん……! うちのチームにも導入や!」
こうしておっさんは、社内のDX推進部に相談し、試験導入を決定。
数日後、おっさんの元にAI評価ダッシュボードのアクセス権が届いた。
AI評価の現場、混乱の始まり
最初は面白半分で見ていたおっさん。
ダッシュボードには部下の名前と、各種スコアが棒グラフで並んでいる。
- 田中くん:技術力4.5、協調性2.0、納期遵守4.8
- 佐藤さん:技術力3.0、協調性5.0、納期遵守3.2
- 山下くん:技術力5.0、協調性1.2、納期遵守2.9

「……あれ、山下、技術力バケモンやな」
普段は目立たないけど、やたらPull Requestが多くて、レビューも的確だった山下くん。

「確かに、あいつ夜中によくSlackで“LGTM”って言うとったな…」
しかし問題はその次。

「協調性1.2!? そんなに悪かったか?」
Slackの履歴を見返すと、返事が短く、「了解」ばかり。
スタンプも使わない。雑談にも参加しない。AIはそこをマイナス評価していたらしい。

「いや、でも別にケンカ売っとるわけやないやろ……」
部下、ざわつく
そして、チームにAI評価を導入したことを軽く伝えた翌日、Slackが騒がしくなった。
「なんか評価されてるらしいよ、AIに」
「マジ? どうやって判断してんの?」
「チャット履歴らしい。オレ、スタンプ足りてないかも…」
田中くんが突然「お疲れ様です!😊」を連打し始める。
佐藤さんは「いいですね👍」と1日50回くらい言い始めた。

「これ……逆効果やないか?」
AI、空気を読まない
評価の途中、おっさんは1つの疑問にぶち当たる。

「そもそも、AIは“空気”を読めるんか?」
例えば、山下くんの協調性が低いとされたが、実際には彼は他人の進捗に合わせて機能を後回しにしていた。 それって「空気を読む力」ではないのか?
AIは表面的なやりとりは分析できても、行間までは読めない。

「定量評価は大事やけど、それだけやと逆に見えへんもんがあるな…」
おっさん、AIと対話する
ある日、おっさんは評価AIに向かって呟いた。

「なぁ、ワイが評価される側やったら、どうされるんやろな」
AIは冷静に答えた。
「あなたはSlackでの発言が多く、部下へのスタンプも頻繁です。
ただし、深夜の長文投稿が目立ち、チームのワークライフバランスに悪影響との声が…」

「お前、そういうとこやぞ!」
おっさん、学ぶ
結局、おっさんはAI評価を「参考情報」として使うことにした。
最終的な評価は、本人との面談や、他のメンバーからのヒアリングを元に決める。

「AIは便利やけど、結局“人を観る”のは人やな」
そして今、おっさんの机には、AIスコアと手書きのメモが並ぶ。

「この子、Slackは淡白やけど、コーヒー淹れてくれる優しさがあるからプラス2点や」
AIにできること、できないこと。
それを見極めて使いこなすことこそが、真の“AI活用”なのかもしれない。
まとめ:AIは“評価の道具”、人は“評価の本質”
AIによる評価導入で得られたのは、効率化だけではなかった。
- 部下が“見られている”ことを意識し始めた
- 上司が「感覚」に頼らない判断軸を得た
- そして、“AIでは測れないもの”に気づいた
おっさんは今日も部下の週報を読みながら、コーヒーをすすりつつつぶやく。

「ほんま、評価って難しいわ。でも、AIとなら、ちょっとだけうまくできる気がする」